無意識の理由
温かな日差しは、著しく睡眠欲をかきたてる。
その日はきっと、今までにないくらいの心地よさで。
脳の中枢までもが蕩けて、何も考えられなくなっていたのだ。
だって、そうじゃなけりゃ、説明がつかない。
:: 春の午後、屋上の片隅、 ::
(なにが起こったんだ)
ぐるぐると脳内を支配するのは、そんな取りとめもない疑問ばかりだ。
頭が冷静に動作していない。
糖分が足りないとか、そういうのじゃなくて、もっと。
もっと感覚的な部分で――そう、例えば、他の事を考えられないくらいに舞い上がっている、だとか。
そんな風に、居心地の悪くない感覚。
心臓が、痛い。
ことが起こったのは、今から数分も前ではない。
ただ、いつものように屋上で昼食をとっていただけだった。
いつものように、三人で。他愛もない会話をして、腹を満たした。
問題が起こったのは、その後だ。
ツナが、喉が渇いたといって席を立ったあと。
それなら自分が買いに行きます!と進言したのをやんわりと制されて、行き場のない手を彷徨わせた、そのあと。
不意に落ちた沈黙は、特別不思議なものでもなかった。
話すべきことも、ましてや話したいこともありはしない。
適度な満腹感に包まれて、太陽が眠気を連れてやってくる。
だから、それに、酔ったのだと。
そう理由をつけてしまえば、簡単で楽なのだけれど。
まどろむようにして起こしてしまった行動に、理由などつけられない。
つけられない、から狼狽している。
「ん?何、獄寺」
ごくでら、
そう、名を呼ばれたときには、お互いの顔は本当に目と鼻の先で。
止めようと思う間さえなく、吸い込まれるようにしてそれは、重なった。
(……………)
我に返ると同時に慌てて屋上を逃げ出ると、獄寺はくちびるをそっと押さえた。
どれくらいの時間が経っているのかは分からない。が、ツナはまだ帰ってきていない。
そんなに短い間だっただろうかと、獄寺は考えた。
考えて、どうしてそれがそんなに長く感じたのだろうと、頭を抱えた。
答えが見つからないから、ではなく、答えに納得がいかないから。
(………何)
何が、起こったのか。
わかっては、いる。――だけど。
(なんで)
たかが、くちびるが額に触れてしまった、それごときの事故で。
(事故というには、条件が揃っていなさすぎたけれど、)
どうしてこんなに身体中が熱いのか。
明らかに太陽の所為ではない熱に、獄寺は両手で顔を覆った。
事故に理由がつけられないから、困るのだ。
無意識の行動だなんて、まるで、―――
(……そう、なんだろうけど)
無意識に増徴していた気持ちを自覚した、
穏やかな春の日。
/06.12
初のキリリクにテンパりにテンパった結末。
費やした時間と出来が比例できていないという罠。