飽くほど、億千万のくちづけを
きゅっと、あたためるように抱きしめてくれるうでがすき。
ふわっと、はるのこもれびのように笑うかおがすき。
ぎゅっと、ひきとめるように絡めてくるゆびさきがすき。
そっと、いたわるように触れてくるくちびるが、いちばんすき。
ぱりんと音がして、何かがはじけた。
「あ」
小さく、声を上げる。
それはとてもかすかで、自分の耳にさえ、届かない。
それなのに、なんでだろうね、
「いつき?」
きみはいつだって拾い上げてくれるんだ。
小さく呼んで、手のひらに触れられて、こくんとのどを鳴らした。
なにかが乾いて、やまない。
「かおる」
呼び返しただけなのに、やんわりと笑って。
やあねさすがふぇみにすと!と笑うことができなくて、焦った。
「どうしたの、いつき」
ん?なにが?
聞く前に、握った手を、そっと頬に誘導される。
…あれ?ぬれてる?
「…どうしたの」
「はは、それは俺が聞いてるんだけどね」
苦笑い。
それからよしよしと頭を撫でて。
あふれた液体を、指ですくいとる二見。
…あ、もしかして俺、泣いてるの。
「…ごめん」
「ん?」
「ごめん、ね、かおる…」
今度は、「どーしたの」って聞かずに。
ふんわりと笑って(これがふぇみにすとってやつ?)、もういちど手を、握った。
「だいじょうぶだよ」
「…………」
「だいじょうぶ。ね、いつき」
「……うん」
ごめん。
ごめんね、弱くて。
きみがいなきゃだめなくらい、弱くて。
だけどね、守ってほしいわけじゃ、ないんだ。
「かおる」
呼んで、ひんやりと冷たいもう片方の、手を。
差し伸べた瞬間、ふんわりと、指が。
絡み付いて、すっと、ぬくもりが。
ぱりん、ぱりん、ぱりん。
音が、する。
きみが、とても澄んでて綺麗だよと言った、音が。
ばいばい。
いって、しまうんだね。
「いつき」
絡んだ指に、ぎゅっと力が、こもって。
ぱりん、ともういちど、落ちる音がして。
小さな結晶がこぼれおちる前に、なめとられた。
「いつき」
「……うん」
両手をからめて、肩に顔をうずめた。
ああ、なんかすっごく、あったかい。
「かおる。…ねえ、かおる」
「うん」
「かおる」
「うん」
「…ごめん、ね」
「…………」
「さむい、」
言うと同時に降ってきたくちびるは、しょっぱくて。
思わず、ぱりん、塩の結晶が降った。
「かおる、…ごめん、ね」
拙くなぞる乾いたくちびるの軌跡
(ぼくがぜんぶもらってしまって、ほんとうに、ごめんね)
/08.03
いつ書いたのかもわからないほど昔のサルベージ!
あの頃の私はいっつんをぼろぼろにしたくてたまらなかった…んだと思う←←
それにしてもいっつんとふたみんはホント夫婦過ぎると思うよ!