久ぶりに部活が休みだと言われた。
野球は大好きだけど、たまには休みもいい。
だって、そんな日は。
「じゃあ、久しぶりに一緒に帰れるね!」
放課後フリーの旨をツナに伝えると、彼は快く喜んでくれた。
最近はずっと部活がつまっていてツナたちと3人で下校できる機会がなくなってしまっていたから、寂しいと思っていたのだ。山本も嬉しい。ツナが喜んでくれてもっと嬉しい。
もうひとりは、と遠慮がちに視線を送ってみると、当人はまったく興味なさそうに窓の外にたぶん目的もなく視線を投げたまま、くわえた煙草をふかした。
彼も喜んでくれたらどんなに嬉しいだろう、と考えて、そんなことはありえないだろーな、と苦笑いをひとつ。
だって、それでこそ彼なんだから。でも、ふとしたところで実はすごく優しいから、好きなのだ。隠しているようで隠しきれていない根本的な人柄のよさが、いとおしいのだ。外見とか口調とか態度とかで誤解されがちだが(もちろん誤解じゃないこともあるけれども)、実はとことん寂しがりやなところとか、たまに、ほんとに稀に、好きだと囁いてくれるくちびるだとかが、山本は大好きだった。
(楽しみだなー)
やっぱり3人ですごす時間が少しでも増えることが、とても嬉しいことなのだと、山本は顔をほころばせた。
そんなことがあったのが、今朝の話。
「……………」
そして今、放課後。
山本はいつものように部室で、不機嫌なオーラを漂わせながら頬を膨らませていた。
野球部の面々からすればまったく意味不明だが、怒りの原因は山本に言わせれば単純明白だ。
(今日は部活ないってゆったくせに。……なんで、ミーティングなんか)
たしかに野球は好きだ。もちろん今のように作戦を考える会議だって、嫌いではない。それも野球の一間だと思う、けれど。
最初から期待させないで欲しい。やるならやるとひとこと言っておいてくれれば、あんな風に誘ったりしなかったのに。誘ったりしなかったら、ツナだって落ち込まなかっただろうし、獄寺だって怒らなかっただろうに。期待しなかったら、こんなに寂しくなったりしないのに。
(……………)
予定では、今まさに、3人で帰路についているはずだったから。
普段は当たり前の、横に彼らがいないという「今」が、必要以上に寂しく感じる。
いつの間に、こんなに依存するようになってしまったのか。否、依存というには気持ちのいい感情でありすぎる。
ただ、一緒にいたいと思うことが。一緒にいられるということが。
漠然と、嬉しいことだと思うのだ。そしてそれが、最上級の幸せだと思えた。
結局ミーティングが終わったのは、教室で両手を合わせてツナたちと別れた時から、優に1時間は経ってしまったあとだった。
(…ツナも獄寺も、もう家かな)
2人の家は、この並盛中からそう遠くはない。いくらゆっくり足を進めていたとしても、そろそろ到着してもいいころだろう。
突然教室に後輩がやってきて、放課後にミーティングがある旨を教えられて。それじゃあ一緒に帰れないね、というツナの悲しげな言葉を受けて、獄寺が、守れない約束ならするんじゃねーと怒った。
ごめんな、と謝った心は偽りじゃない。だけど、自分だって残念なのだ。申し訳ないと思う感情、だけではない。
(……さみしー、な)
冬の乾いた風が、頬を撫でて通り過ぎる。
ついでにちょっと自主練でもしてくかなーと言っている部員たちのわきを抜けて、山本はいちばんに部室から出ていた。
この時期の太陽はせっかちで、6時近くには既におやすみ体勢に入ってしまう。まさに今、太陽の姿は見えなくて、オレンジの光だけが光源として差し込んでいた。
吐く息は、もう白い。
それでも、寒さよりも切に、侘しいと思った。冬の夕暮れ時は、いつだってそう思う。夕日が沈んでいく瞬間、ひとりで広いグラウンドに立っていると、このまま音もなくすべての世界が消えてしまうような錯覚に襲われる。それは自分がいなくなるからなのかもしれないし、本当に世界が自分をおいていなくなってしまうからなのかもしれない。わからないけれどやっぱり、とても寂しい気分になる時間だと思った。
(……帰ろ)
どれだけ考えたって、もう過ぎたことだ。戻りはしないし状況がよくなることもない。むしろこのまま時間が過ぎたら、夕日は完全に沈んで静かな闇の制す時間が始まる。こんな気分でひとりの夜を迎えるのは嫌だな、と思った。
疲れているのかもしれない。いつもの自分だったら、こんなに弱いことを考えることもないのに。どうしてしまったんだろう、と自問して、わからない、と自答した。
いつものようにひとりで、下駄箱から履き古したスニーカーを取り出す。座り込んで履く気にもなれなくてかかとを踏みつけると、伏せていた顔を上げて、まだ夕日の光があることを確認した。と。
「……………」
前方に、人影がふたつ。
(………え?)
慌てて走りよって、座り込んだふたつの影の正体を確認すると、山本は言葉を失って立ち尽くした。
「お疲れ、山本」
赤い鼻をこすって、白い息を吐いて、ツナが笑う。
「……さみぃ。にくまん、奢れ」
ずっと鼻をならして、煙草の煙を吐き出して、獄寺が唇を尖らす。
「じゃあ、帰ろっか、山本」
ああ、やっぱり好きすぎる、と。
山本は思わず泣きそうになって、それでも笑った。
/07.01
ボンゴレ3人組は仲良し!
みんなとっても優しい子なんだよという妄想。