掴まれた左腕が痛い。ぎりぎりと食い込んでくる爪に眉をひそめて、正面から押さえ込んでくる男を見上げた。
いつの間にか追い抜かれた身長。たぶん出会う前から負けたままだろう握力。全身の力。眼力。迫力。総動員でおれを抑えこんでくる、男。
わかった、もう、わかったから。
納得も何もしていない脳が、叫ぶ。背中にあたるロッカーが冷たい。
「はな、せよ」
「いや、です」
何度となく繰り返した言葉は堂々巡り、末端は見えてこない。何をどうしたら終着にたどり着くのかもわからない。
いや、たぶんそれは無理なんだ。だってそもそもスタートを切っていない。始まっていないものに終わりなんか、ない。だけど始まることは許されない。
できるのは、きっと。
「はなせ」
「いや」
「はなせよ、はるな」
びくりと揺れる感覚が、榛名の右手を通しておれの左腕に伝わり、全身を震わせる。伝染する――危険信号が、点滅する。
ちかちか。ちかちか。
目が痛む。
「加具山さ――」
「榛名」
放り出されていた右手で、力を加えてくる彼の右手を掴む。
そこでひるむのが、お前の悪いところだよ、榛名。
お前はいつだって、左手を上げるタイミングが遅いんだ。
手を伸ばすタイミング。それがそのまま、お前の答え。
「離せ、榛名」
何も言わずに力を失った右手はすり抜けて、始まりの発端を乗せたまま深く、沈んでいった。
/07.09
終着は見えてる。だけどぼくらは遠回りせずにはいられないいきものだから。
榛→←加。タイトルだけ気に入ってます^^