:: 渇望、と、月明かりの、 ::
「っ、あ、う…っ、ヒバ…っ!」
理由なんかない。
ただ、かき抱きたいと思うからそうするだけだ。
「いた…ぃ、って…!」
嗚咽交じりの声もどこ吹く風で、思いのままに腰を打ちつける。
慣らしもしない蕾は裂け、鮮血を滴らせていた。
血の匂いで、頭が麻痺しそうだ。
くらりと眩暈がして、雲雀は目を閉じた。
力の抜けた膝を叱咤するように押し上げて、自分よりも高い身長を壁へと押し付ける。
混ざり合う呼吸の音が、心音と交差した。
(……どうして)
イライラする、と、雲雀は山本の腰に回した手に力を込める。
切りそろえた爪がわき腹に食い込んで、山本がくっと息を詰めるのと同時に、新たな血液が自らの手を染め上げるのを感じた。
その手で瞳に浮かんだ涙を救い上げると、爪の先に付着していた赤い血が、指を伝って手首に落ちる。
もっと、と何かを渇望する欲求が、雲雀を山本の首筋に食いつかせた。
「いっ……!」
食む、とか、啄ばむといった表現がまったく似合わないその行為は、まるで獲物の肉を食いちぎるそれだ。
整った歯形に覗いた朱を、そのままの舌でぺろりと舐め上げる。
先ほどよりも血の匂いが近くなって、眩暈が酷くなった。
「……ヒバ、リ」
消え入るような声で呼ばれるのと同時に、スパートをかけるように腰の動きを激しくする。
やがて雲雀は山本の中で果て、山本はその欲望を吐き出すこともしないまま気を失った。
ぐったりと力なくずり落ちていく身体を苦もなく受け止めて、そのまま反転させる。
向かい合う格好になって、雲雀は、そっと山本のくちびるに己のそれを押し当てた。
(足りない)
そう、自分の中のどこかが、何かが、必死に訴えている。
何をそれほどまでに求めているのかわからない。ただ確かにいえるのは、こんなものじゃ満足できないということだけだ。
交わした接吻を深くすることもなく、思ったよりも厚いくちびるを一口に食んで、かりっと歯を立てる。
気を失ったままの山本の眉が顰められて、くちびるにぷつりとひとつ、朱の玉が滲んだ。
それをぺろりと舐め取って、力なくもたれかかる山本の身体を無造作にソファーの上へと投げ出すと、雲雀は中央の椅子に腰掛けた。
鳥の鳴く声。他に、音はない。
いつの間にこんな脆弱な世界になってしまったのか。気付かないうちに、外はすっかり暗闇の支配するところとなっていた。
たしか彼は、今日は早く帰らねばならぬのだと言っていた。父親の誕生日なのだと言ったか。
そんなことを告げたところで、聞く耳持たぬことは知っているだろうに。
空に浮かぶのは月だけだ。
薄明かりが、ぼんやりと応接室内を照らし出す。
だらりと手を投げ出してソファーに横たわる身体に、朱の玉が、てんてんと。
青白い月の光を浴びて、煌々と紅に、輝いていた。
それでも、どうして、キミは。
(逃げ出すことをしないんだい?)
/07.01
DVなヒバリ様。
それでもすきなの。しかたないじゃない。