どうしてそんなふうにぜんぶかくすの、
聞いたら、泣きそうな顔をしてみずたににはおしえないって言われた
さかえぐちはときどき、すごくひどいやつだ
おれたち高校球児の朝は早い。まだ外が肌寒い早朝から汗でべたべたになるまで練習、なんて、なんか青春って感じだよなあこういうのってなんかいいなあ、的外れなことを考える。
裸でベットの上、しかも隣に恋人が寝てる状況とはまったく似つかない。そんなふわふわしたものじゃない、よ。
「さかえぐちー?」
あさだよー、
聞こえるか聞こえないかの、声で。起こす気がないのかって聞かれたらもう、答えようがない。起きてほしくはない。だけどずっと眠ってたって、つまんないでしょ。
うつ伏せに眠る恋人の頬はいつもとても柔らかくて、触っただけで昨日の記憶がよみがえってどきどきしちゃったりするのは、まあ健全な男子高校生だし朝だしさかえぐちがかわいすぎるし、仕方ない。
離しがたくてぷにぷにと触っていると、さかえぐちはすぐに目を覚ました。いっつもちょっとしたことですぐに起きちゃうこの子は、夜あんまり眠れてないんじゃないかなあと思う。浅い眠りにしかつけない夜。そんな貴重な時間をちょうだいしてるのは、ほかでもないおれなんだけど。それはまあ、かくかくしかじかで許してほしい。
「…みずたに?」
まだ眠そうに目をこすりながら漏れた声は舌っ足らずで、ああもうかわいいなあこの!と抱きつきかけて慌てて抑え込んだ。だってまたみぞおち蹴られるのは、さすがにいやだなあ(思い出さなくていいことまで思い出しちゃった!)。
「おはよー」
なるべく平静を保って挨拶したら、はよ、と極上の笑顔、で。いっつもこうやってせっかくのおれの努力を無にしてくんだ、ほんとさかえぐちって罪なヤツだよ!
「へーき?」
「ん、なんとか」
「そっか、よかったー」
「…おまえなあ、心配するくらいならはじめから加減しろよ」
「えへへへ、ごめんね」
自分でも反省のかけらも見えない謝罪だなーって思うけど、だって久しぶりだったんだものしょうがないじゃん。かわいい声聞くのも、やわらかいところに触るのも、キスするのだって最近ご無沙汰で。正直ストッパーは限界だったって、知ってるんでしょさかえぐち。
「まあ、自制心なんておまえに期待してないけど」
「あはー、ヒドいいいようだねえ」
「…ヒドいのはおまえの顔、だよ」
ああやっぱり?
またえへっと笑って首を傾げたら、さかえぐちがバカじゃないの、と笑った。
心臓が止まりそうになるんだ、だってさっきまでひどいさかえぐちだったのに。
「さかえぐち、」
ん?と問い返すさかえぐちは昨晩とは別人みたいで、思わずせっかく起こした上半身もういちど倒して、くちびるを喰む。
ん、と今度は違うニュアンスで声が漏れて、わずかに影る、表情。
「…ん、み…ずたに、」
「うん」
「朝練、遅れる…よ」
「うん」
ちゅっちゅっと、鳥が餌をつつくみたいにさかえぐちのくちびるを食べて、頭半分に返事をする。聞いてんのか、とイラついたような声を出しながら肩を押し返してくる手のひらに、力はない。
最後にごちそうさまとばかりにほっぺたに口付けて、ベットを立った。
「よし、じゃ、」
「…………」
「着替えよ、か」
「……うん」
「立てる?だいじょうぶ?」
「うん、へーき」
ベットから立ち上がってありがと、と投げかけられた笑顔に、今度はもうキスはできなかった。
だいすきだよさかえぐち。
おれもたいがい、ヤなヤツなんだ。
/07.09
ひどいのは、どっち、さ
両想いなのに両片想いなミズサカ。