じっと真摯に見つめる水谷の視線の先を追って、いやになった。どうしてもう、こいつはこうなんだ。重々しく息を吐いてみせると、そういうことにだけは目ざとい水谷がびくんと肩を揺らして、違うよ違うさかえぐち!と聞いてもいないのに弁解を始めた。何が違うってんだ。わざとらしいため息をもう一発、水谷はまた肩を揺らす。
知ってたけど、わかってたけど、改めてやっぱこいつ馬鹿だなあと思う。それから、馬鹿な子ほどナントカっていう理論もその通りだなあとしみじみ納得するのだ。やつは大概どうかしてる。言ってしまえば、それがおもしろいからってやつをいじめるおれだってどうかしてるんだけど。いやでもこれはいじめじゃないよな、だって水谷が勝手に勘違いしてるだけだし。まあ、その勘違いに気づいていて修正してあげないことがいじめなのだと言われたら弁解の余地はないけれど。
ふいと視線を逸らして機嫌悪そうな素振りを見せてみたら、とうとう本格的に心配になったらしい水谷が、足を止めてしまった。それはおれの足を止める方法?おれが無視して行ってしまったらどうするの。もしかして、そんなことはできないってこと、バレてる?だったとしたらそれはとても、悔しい。けどしょせん逆らうことは出来なくて思惑通りに足を止めてやると、水谷は心なしか青い顔で、でも少し嬉しそうに、口を開いた。
「あ、あのねさかえぐち、おれは別にあの女の人見てたわけじゃなくてね、」
「…別に水谷が誰見てたって、おれには関係ないだろ」
「あ、う、お、怒ってるくせに!」
「怒ってない」
「怒ってる!」
「怒ってない」
あ、このままだと堂々巡りに突入するぞ。思ったけど、おれが折れるわけにはいかない。だってほんとに怒ってないんだもの。むしろ緩みそうになる頬を引き締めるのが大変なくらいだ。必死に我慢してたら、水谷の方が当初の目的を思い出したらしい。ぐっと口を結んでから、泣き出しそうな顔をする。
「…怒らないで、聞いてくれる?」
「だから怒ってないって言ってるだろ」
「お…、!……あの、ね、」
再び始まりそうになった堂々巡りのきっかけをすんでのところで飲み込んで、水谷は恥ずかしそうに目線をそらした。そりゃあ恥ずかしいだろうなあ、おれだったら絶対そんなの、口に出せない。おれの機嫌が悪くなるのを回避するためとは言え、羞恥も捨てられる水谷のこと、実は少しすごいと思ってるよ。
っていうかここまで理解してて助け舟は出さないおれ、もしかしたらそうとうサディストなのかもしれない。
「あのカップル、手、繋いでたから!いいなあとか思ったり、し、て…」
ぎゃああ恥ずかしい!両手で隠した顔がそう語ってる。まあ、そんな如何にも女の子なポーズはどうにかした方がいいと思うけど(だっておまえ一応オトコノコだろ!)。さすがにこれ以上いじめるのはかわいそうだし、おれの方だってそろそろ。
耐えられなくなって噴き出すと、水谷は呆気にとられたようにぽかんと口を開けて、さかえぐちっ、また…!と震えた。ごめんごめん、目尻の涙を拭って、ぽんぽんと宥めるように肩を叩く。じとっと上目で睨まれて、もう一度ごめんってば、と首を傾げると、がし、勢いよく肩に添えた手のひらを掴まれた。
「なに?」
「お返しに、手、繋いでもらいます」
「……は、ああ!? そんなの、人前で!」
「ダーメ、さかえぐちに拒否権はないの」
「ダーメじゃねえよ!何勝手なこと言って、」
「水谷くんは傷ついちゃったんですよー責任はしっかりとっていただきまーす」
「おい、こら、ちょっと!」
手のひら鷲掴みにしたままスタスタと歩き出す水谷の背中を追いかける(というか、追いかけざるを得ない、だって手は繋がったまま)。握り締められた手のひらが熱い。ばかだなあ、いつまで照れてるんだか。くせのある長めの髪の脇から露出した赤い耳を見て、小さく笑った。
それを指摘してやらないのは、小さなやさしさと照れ隠し。
それは飽くほどに、
(甘く色づく桃色)
/07.11
S口M谷を目指して撃沈、ちなみにskmzじゃないですmzskです
それにしてもうちのみったには気持ち悪いなあ^^←