キミがそばにいるということ、
「今日は早く帰って、いっしょに飯食うぞ」
そう告げたのは、かれこれ8時間ほど前になるだろうか。
崩れ落ちた廃墟の瓦礫の陰に隠れて契機を窺いながら、リボーンは眉根に刻まれた皺を深くした。愛銃を握る手に力がこもる。早くしろ、早くしろ、奥歯を噛んで誰にともなく舌打ちを零した。焦れている。自覚はある。
そもそもこんなことになった原因はどこにあるのだったか。ああそうだ、こんな仕事を引き受けたアイツ――いいや違う、そもそもこんな仕事を命じてきたボス――いやそれも違う、大体からにしてこれから撃退する予定のヤツらが調子に乗って天下のボンゴレにケンカをしかけたりしてこなければ、こんな事態は生まれていないはずだ。自分は予定通り久々のオフを堪能できるはずだった。
「…………」
よし、これで確かな標的が判明した。
年に数回取れるか取れないかの休暇をぶち壊し、当初の予定を崩しやがった輩(ついでに言えばボンゴレに害を為そうとまでしている)――もうそれだけ条件がそろえば、臨界点を越えるのは簡単だった。
風が凪ぐ。いち、に、さん。口早にカウントを取って、リボーンは地を蹴った。
『ん、りょーかい。……でも、なんでいきなり?』
『いいから、今日の仕事終わったらおれの部屋に来い』
疑問符を掲げて首をかしげる山本に、リボーンは彼よりも少し低い視点からぐっとネクタイを掴んで、いつもより低い声でそう告げた。ここで赤面のひとつやふたつでも見せてみればかわいいものを、この天然はほけほけと笑ってわかったと頷くだけだ。もうそんな対応には慣れた――というか、むしろその反応によりそそられるのだといったら、ただの変態だろうか。
『んじゃー、たまにはおれが飯つくろっかな』
『久々に日本食か。いーぞ、よろしく頼む』
『最近ゆっくり飯食べてる時間もなかったからなー。とびっきりうまいの食わせてやるよ!』
『期待してるぞ』
まかしとけ、歯を見せて笑って、山本は力こぶを作るようにして腕を曲げて見せた。薄く笑って肩を小突けば、さらに笑顔が深くなる。こんな風にたくさんの種類の笑顔を見られるようになったことを、嬉しく思う。他人の前にはない、自分の前だけの彼ができたことを、嬉しく思う。彼の前だけの自分を見せられることを、嬉しく思う。
『なんだかんだで小僧と飯食うのも久々だよなー』
『ああ、そうだな』
『だってお前、いっつも忙しいんだもん』
『お前だって負けてねーぞ。……とりあえず今夜は、寝られない覚悟はしとけよ』
『えー、こっえー!』
軽口を叩いて笑い合って、わりーなんかおれ仕事頼まれちった、と頭を掻きながら報告してきた山本のボディーに半ば本気の拳を打ち込んだのは、それから約1時間後だった。
「おい、ツナ」
「うん?……あ、リボーン」
「任務はしっかりこなしてきたぞ。もう勝手にあがるからな、詳細はあとから来るやつらに聞け」
「ああ、うん、お疲れさま。ごめんねリボーン、せっかくの休暇に……あ、かわりに山本はもう早くに帰してるから」
「当たり前だ」
手短に述べて踵を返す。一刻も早くこの部屋を出て、彼を待たせている部屋に帰りたい。
「それにしても、3日かかる予定だった仕事、ものの半日で終えちゃうんだもんなあ。ホントに3日かかってたらやばかったもんなー、やっぱりリボーンは頼りになるや」
それなのに、つっこまずにはいられないような台詞が背後から漏れ聞こえてくる。
そもそもこの仕事は山本に持ち込んだものではなかったのか。それなのになんだこの、最初からおれを当てにしていたような口ぶりは。
大いに予想できる。目を半眼にすえて、リボーンは錆びた鉄の音がしそうな動作でゆっくりと振り向いた。
「……ツナ、お前、」
「ほら、早く山本んトコ行かなくていいの?待ってるよ、きっと」
にこおっと満面の笑みで見送られて、いい度胸してるじゃねえかお前ちょっとそこに座れ、なんて説教をたれるのも面倒くさくなってくる。というか、馬鹿らしい。そもそも薄々感づいてはいたのだ。ただそれでも抗う術が他になかったから、思惑通り手のひらの上で踊ってやったまで。それはあくまで自分の意思だ。だから今は図られたことに文句を並べるより先に、ツナの言うとおり自室へと向かうことにする。
きっとそこには、暖かい夕飯といっしょに彼が待っているのだろう。思うだけで、苛々が多少なりとも解消されるのは大変不思議な話だ。こんなに丸くなった自分に、誰よりも自分自身が驚いている。
とりあえずこの馬鹿への報復はまた後日にするとして、リボーンはドアの取っ手へと手をかけた。時間が遅くなる分利子は大きくなることだけ覚悟しておけと、捨て台詞だけ残して。
ぴきりと背後で何かが凍りつく音がする。いい気味だ、振り返らずに部屋を出た。
今日は、ただいまと告げて部屋に帰ろう。
築いてゆく、未来へ!
(ただいま)
(おかえりリボーン!お付き合い1周年おめでとうおれら!)
/07.11
11月22日、いい夫婦の日!
お付き合い1周年記念はいっしょに食事がしたい乙女なリボさま(笑うところ
将来的にツナはリボさまをも操作できるような偉大な男になってるといい^^
ちなみに深澄さまのサイトの1周年記念に押し付けてきました^^←