ティーンエイジャー!
「あー!!」
突然隣から大声が聞こえてきて、必死に暗記した公式の2,3が頭の中から消えていくのをかすかに感じた。
あーあ今回の期末って結構大事って言われてんだけどな、まあいいか別に物理はそんなに苦手じゃないしなんとかなるだろ。
自己完結するとともに思い出したように振り返ると、そこには青い顔して鞄の中をごそごそと弄るチームメイト、が。
「どうした?」
声をかけて上げられた顔はもう今にも泣き出してしまいそうで(大げさじゃなく、ホントに)、びくりと肩が揺れる。ほんとにどうしたんだよ、と少し間を空けて問いかけてみたら、やばいどうしようーとひとしきり唸った後、栄口はぱっと目の前で両手を合わせて見せた。
「巣山、一生のお願い!シャーペン貸して!」
切羽詰った表情でそんなことを言ってくるもんだから咄嗟に身構えてみれば、なんだお願いの内容はそんなくだらないもので(表情から察するに、栄口にとってはくだらなくなんてまったくなかったのだろうけれど)。何、筆箱忘れたの?と聞けば、無言でぶんぶんぶんと3度頷く。
あの栄口が、忘れ物。珍しいこともあるもんだ。
思わず面食らいながらいいよと返すと、栄口は伏せていた顔を呆けさせたまま上げた。
「…っは、なんだその顔」
「……え、あ」
その顔があんまりにも無防備で面白かったもんだから、溜めていた息がぷっと一気に漏れる。笑いを殺さないまま筆箱からシャーペンを1本差し出したら、呆けた表情を直せないまま栄口は手だけでそれを受け取った。
「…いいの?だってこれ、いつも巣山が使ってるヤツじゃん」
「いーよいーよ、もう1本持ってきてるし」
「え!ホントに?」
「え。……フツウじゃね?」
栄口はいっつも1本しか持ってきてねえの?尋ねると、いやあおれは2本持ってきてんだけどさあ、中学時代にも1回筆箱忘れたことあって。そん時に友達まわってシャーペン借りようとしたら、みんな自分が使ってる1本しか持ってないって言っててさあ。なんか、そーゆーもんなんかと思ってたんだけど。よかった、巣山が2本持ってる人で、と心底安心したように微笑まれる。毎日シャーペンを2本持ってきてることって、そんなすごいことか?いや、それ自体は全然、まったく、なんの変哲もないことなんだろうけど。
(2本持ってきててよかった)
…なんで?
え、そりゃもちろん、おれが2本持ってきてたから栄口は今日のテストを無事に乗り切れるわけだし、誰にともなく生成された言い訳が覆い隠しているものを探す前に、まずはさっき飛んでしまった公式を思い出すことにしよう。
目下の敵は、期末考査――だ。
始まらない、まだ。
(もう少し経ったら わからない、けど)
/07.09
男子ってシャーペン1本しか持ち歩かないよねって話
私も荷物減らすためにシャーペン1本ですが←