:: はじまりがいつかも、おわりがあるのかも、
::
「ねえ、鷹見くん」
「ヌ?」
あれだけキツかった15kmのランニングが、いつしか少しずつ楽に思えるようになってきた。知らないうちに体力もついてきて、みんなには及ばないまでも、俺もやっと野球が出来る身体になったんだなぁと、嬉しくなる。
やっぱり野球が好きだった。身をもって、思い知らされた。
ソレもコレも全部、言ってしまえば彼のおかげなんだろうけど。あの事故がなければ――彼と、出会わなければ、今の俺は存在しなくて、野球ともすっぱりオサラバして、夢とか希望とかそんな暑苦しいものも忘れたまま、あの心地よい汗のにおいや土の味も知らないまま、やがて大人になっていったのだろう。退屈で稚拙で、どうしようもない人生だ。
彼との出会いで、俺の人生は良くも悪くも転機を迎えている。すごく、不思議だ。
「たかみくん」
今ここに彼が存在するのも(…もっとも、こんな在りかたを“存在”というのかどうかは知らないけれど)、神様のちょっとした気まぐれでしかなくて、気が変わったらすぐにこの姿は消えてしまうのかもしれない。彼の人生につけたされた時間は、見えない砂時計に縛られている。果てがあるのかも分からないと思ったら、もう明日には、ううん、次の瞬間には消えてしまうのかもしれない。はたまた、彼の存在自体が俺の妄想で、実際に彼は、もうどこにもいないのかもしれない。野球への未練を残したまま、今も甲子園の空を漂ってるのかもしれない。
そんなことは、何度も考えた。何十回も考えた。だけどやっぱり、それが事実なのか妄想なのかなんて問いに、答えが出るはずもなかった。
ただ思い知ったのは、斑模様を描く鷹の翼が想像よりもキレイだということ、雀が鷹に抱く感情がただの憧れだけではなかったということ。高く隼く、隣で駆けたいと思うのには、それなりの理由があるということ。そんなこと、できるなら知りたくもなかったけど。
「たかみくん」
「だから、何じゃっていっとろーが」
「へぶしっ」
遠慮もなしに(むしろ、されたらちょっと気持ち悪いけれど)横っ面を殴られて、するどい痛みが身体中に走る。
それが、彼の存在が現実のものだと教えてくれる痛みなのか、俺の浅はかな願いをあざ笑う痛みなのかは、わからない。考えたくもない。だってこの関係はいつまで続くものなのかなんてわからないし、そもそも始まっているのかどうかさえ知れないのだ。
わかることが少なすぎて、
わからないことが多すぎるね。
「そこに、いるよね」
だから今は、
「当たり前じゃ」
稚拙な言葉で、彼を繋ぐ。
/07.03
太朗ちゃんが可愛すぎる今日この頃。
神と絡ませたい…神!神!(ウザ