:: それはまるで、決まっていた事実 ::
わずかに見える、鬱血の跡。所有の証。独占欲の象徴。
わかっていた。彼にはもうそうと決めた相手がいて、それは俺じゃない。たまたま、それがかみ合わなかっただけだ。
俺は彼をそうと決めて、彼は俺をそうと定めなかった。別の人が選ばれた。ただ、それだけ。世の中にはいくつだって転がっている偶然――否、必然だ。はじめからそうと決まったさだめ。悲観することはない。
むしろ、よろこぶべきだろう。こんな風に近くに、どんな理由であれ、守り守られ、信頼できるカンケイが結べているのだから。
手を伸ばせば届くキョリ、あと一歩が踏み出せないカンケイ。
ある意味、均衡は保てている。当然だ。これは生まれながらにして決まっていた相関図。あらかじめ仕組まれた人生なのだから。
下手にもがいたりはしない。そんな惨めなこと、したくない。
(そうだよ……そう、)
今までずっとそうだったんだ。いまさら、何を変えたらいい。何をどう変えていいのかもわからぬまま。身動きなどとろうものなら――一息で雁字搦めだ。
だけど、決められた運命なんてのを易々と受け入れるほど素直な性分ではない――正確には、そうならざるを得なかった俺だからこそ、あきらめ切れない。あふれ出る渇望を、満たそうとする。
(――ああ、どうして)
いつから、歯車は。はまる螺子を間違えて、空回りを始めてしまったのか。
逆回転。めまぐるしい速さで、世界は色を変えていく。巻き戻されているのか、早送りをされているのか。のみこめない。のに、のみこまれる。
(くるしい、くるしい、くるしい)
助けてくれと、もはや誰にすがっていいのかわからない。きっと相手はいない。だって唯一のそれは、違う人の胸の中で浅く眠るのだから。
いっそ神のもとへいけたら楽なのか。否、彼は優しいから、泣いてしまうだろう。俺が命を絶った理由も知らないまま、こんな薄汚れた俺のために、あのきれいな涙を流してくれるのだろう。
そんなことはできないよ。ヒキョウすぎる。そんなになってキミの心を手に入れたところで、もうかきいだく手がありはしないんだ。
わかってくれよ。もう、こうするしかなかったんだ。いっそ、永遠に離れ離れになってしまうしか。
だけど、キミを天に還すなんてこともしないよ。だって貪欲な俺は、キミを神の手に渡すのさえイヤなんだ。
だから、わかってくれよ。
「泣かないでよ」
そんな涙じゃなくて、あの、花のような笑顔が見たいんだってこと。
大好きなんだ、何に代えてもいいくらい。
/07.02
ツナ山に癒され隊!
黒ツナ山も好きだけど、白ツナ山推奨。